ツール・ド・フランス2020について考える

f:id:kh1109004926:20200902223940j:plain

1.異例の開催

フランス各地3,500kmを21日間で走り抜ける世界最大のサイクルロードレースの大会「ツール・ド・フランス」も他の様々なスポーツイベント同様新型コロナウィルスの影響を大きく受けた。

7月の風物詩と呼ばれるツール・ド・フランスが7月に開催されることはなく、本来であれば6月27日にスタートされていたはずのレースは丸2ヶ月遅れの、8月29日にスタートした。

8月開催、そして9月にレースを走るということは過去106回の歴史の中でも1度としてない。
そんな異様な雰囲気の中で2020年のツールが始まった。

そして今、9月2日現在までで21ステージのうち4ステージが終わった。
現在マイヨジョーヌを着るのはドゥクーニク・クイックステップのジュリアン・アラフィリップ

昨年のツール、消化不良に終わった第19ステージでジャージを失うまで、14日間マイヨジョーヌを着続けたフランスのスターが第2ステージで見事なステージ勝利を挙げ、ここまで3日間マイヨジョーヌを保持している。

本日の第5ステージもスプリンター向けの平坦ステージであり、大きなトラブルがなければそのままマイヨを保持することとなるだろう。


2.今年のツール・ド・フランスの見どころ

今年のツール見どころはなんと言っても例年以上に多く設定された山岳ステージの数々だろう。
山岳ステージは8ステージと過去のツールの中でもトップクラスに多く
特に第17ステージに現れるロズ峠(Col de la Loze)は今回最も難しいとされる峠だ。
f:id:kh1109004926:20200902191526j:plain
ツール・ド・フランス初登場のロズ峠は、登坂距離21.5km、平均勾配7.8%の超級山岳。
前半は6〜8%の勾配で進むがラスト5kmは最大20%を超える勾配を含む平均9.9%、ラスト1kmは11.8%の激坂の峠だ。

各チームのエースがどれほどのアシストを従えてラスト5kmに突入できるかが勝負の鍵になりそうだ。

マイヨジョーヌの争いも終盤に差し掛かってきている中で、この山の山頂を迎えた頃には総合ランクの大きなアップダウンもあるかもしれない。

f:id:kh1109004926:20200902191347j:plain


また、最終20ステージの個人タイムトライアルも最後のマイヨジョーヌを決める為の重要なステージになるだろう。
個人TTラスト5.9kmのプランシェ・デ・ベルフィーユは、2012年の初登場以来その猛威を奮っている激坂峠である。
平均勾配は8.5%でフィニッシュ直前には20%の坂も待ち受ける。
登りに入っていくところでTTバイクからの交換をするかどうか、チームの戦略・走り方も試されるだろう。
このステージは単にTT巧者が勝つというよりは、いつも以上に登れるTTスペシャリストが有利に働くステージと言える。


3.マイヨジョーヌは誰の手に?

今年はコロナの影響によりサイクルロードレースの再開自体から1ヶ月しか経っていない、かつ異例の日程ということもあり各チーム、各選手がコンディション調整に難しさを感じているように見える。

前年ツールを制している大本命のイネオス・グレナディアーズは前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネで前年のツール覇者エガン・ベルナルが背中の痛みによりリタイアしていたり、クリス・フルームやゲラント・トーマスも登りで遅れる場面が多く見られ決してコンディションが良いとは言えない状況であった。
実際フルームもトーマスもツール出場は回避している。
(フルームについては移籍が決まっていたタイミングだろうし無理して走っていないということもあるだろうが…)


そんなぼくが前哨戦ドーフィネ、更にここまでのステージの戦いを見た上で総合優勝の大本命として挙げるのは、チーム・ユンボ・ヴィスマのプリモシェ・ログリッチだ。
ドーフィネでも圧倒的な強さを見せており、最終日は前日の落車によりDNSであったが、それがなければ恐らく総合優勝をしていただろう。

同様にドーフィネで落車しツールを回避することになってしまった3エース体制の一角のクライスヴァイクは残念だが、ユンボのメンバーも今年は明らかにツールに照準を合わせた非常に強力な布陣となっている。


山岳のアシストとしてはセップ・クス、ジョージ・ベネット、ロバート・へーシンクがおり、
(クスはエースのいなくなったドーフィネの最終日で区間優勝を果たすなど好調を維持している)
TTスペシャリストであるベテランのトニー・マルティン、ベルギーTTチャンピオンのワウト・ファンアールトについても十分山岳もこなせる為、場合によってはアシストの役目を担うこともあるだろう。

ダブルエース体制のトム・デュムランとの関係性については今のところ不明だが、昨日の山岳の走りを見る限り能力的にはやはりログリッチのほうが上で、かつ最終ステージの個人TTもログリッチ向きであることから中盤~最終週にかけてはログリッチのアシストにまわるのではないかと踏んでいる。

昨日のログリッチの勝利も見事なユンボのチームとしての勝利と言えるだろう。
最後の1級山岳序盤から中盤にかけてはファンアールトが強烈な牽引を見せ、集団のふるい落としを行い、
ファンアールトが御役御免となった後もイネオスに一切主導権を握らせることなくクスが猛烈に集団を引く。

満を持して残り500mでログリッチを発射し、早仕掛けしていたギヨーム・マルタンを躱しポガチャル、アラフィリップ、ベルナル各チームのエースを抑えスプリントを制した。

イネオスはベルナルがついていくのがやっとであり、クスが引き出した時点でアシストはゼロであった。
あと1kmゴールが長かったらタイム差をつけてログリッチがゴールとなったかもしれない。
それほどまでにユンボのチーム力は他を圧倒していた。


4.最後に
各チームの戦略、戦術、思惑、エースのプライド、全てが錯綜するのがサイクルロードレース
あと2週間強のツール・ド・フランス、本当に様々なドラマが生まれるだろう。
贔屓のチームを作るもよし、贔屓の選手を作るもよし。
それになんと言ってもJスポーツのサッシャさんと栗村さんの解説が面白い。
全世界70カ国が興奮するサイクルロードレースの輪に貴方も加わってみては如何だろうか?


〇次回更新予定日9月9日(水)